公開日:2025.09.25 更新日:2025.09.26

【自動車もハードからソフトの時代へ】SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)とは?

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近年、自動車業界ではガソリンエンジンからハイブリッド車、PHEV、バッテリーEVといった電動駆動車へのシフトが加速しています。電動化に伴い、ソフトウェアの重要性が一段と注目されるようになりました。今後「ソフトウェアが車の価値を決める時代」が訪れると考えられています。
そこで登場するキーワードが「SDV(Software Defined Vehicle)」です。直訳すると「ソフトウェアによって定義される自動車」、購入後もソフトウェアのアップデートを通じて継続的に進化する自動車を意味します。
今回は、デジタル地図を進化させ続けるジオテクノロジーズが、今後自動車業界に大きな変革をもたらすSDV(Software Defined Vehicle)について、SDVとは何か、SDVの課題、各自動車メーカーのSDVへの考え方などを紹介していきます。

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【自動車もハードからソフトの時代へ】SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)とは?

自動車業界の新しい考え方SDVとは?

SDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェア・ディファインド・ビークル)は、日本語で「ソフトウェアによって定義される自動車」と呼ばれます。文字どおり、ソフトウェアによって機能や性能が決定づけられる自動車です。製造・販売後もソフトウェアのアップデートによって継続的に進化していく自動車を意味します。スマートフォンのように、ソフトウェアの追加や更新によって新しい機能の導入や既存機能の改善が可能である点が、SDVの大きな特徴です。そして、経済産業省では次のように定義しています。

「ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)とは、クラウドとの通信により、自動車の機能を継続的にアップデートすることで、運転機能の高度化など従来車にない新たな価値が実現可能な次世代の自動車のことです。」
(出典:経済産業省「モビリティDX戦略」, 2024年5月24日)

ソフトウェアの更新は基本的にインターネットを通じて行われるため、更新のたびにハードウェアを交換する必要はありません。経済産業省の定義にもあるように、クラウドを活用することが大きな特徴です。まとめると、SDVとは次の3点を備えたものです。

・クラウドを活用する
・インターネットを通じて、自動車の主要機能を継続的に更新できる
・従来の自動車にはない新たな価値を実現できる

従来の自動車は、一度製造されるとその性能はほぼ固定されていました。エンジンや走行性能といったハードウェアが、自動車の価値そのものであり、新しい車が登場するたびに、以前のモデルは少しずつ性能面で古くなっていくのが一般的でした。
しかしSDVでは、ソフトウェアによって自動車の性能が決定づけられます。搭載するソフトウェア次第で、既に販売された車でも新型車に遜色ない性能を維持・向上できるのです。例えば、自動運転機能(AD)や先進運転支援機能(ADAS)はSDVを代表するソフトウェアの一つです。

現在の自動運転は、カメラやセンサーによる「認知」、ソフトウェアによる「判断」、そしてハードウェアを制御する「操作」が組み合わさって成り立っています。これらはソフトウェアのアップデートによって精度が高まり、販売後も継続的に最新の機能を利用することが可能になります。スマートフォンのOSやアプリが定期的にアップデートされ、常に最新の機能を利用できるようになるのと近いイメージと言えるでしょう。

SDVが注目される背景

SDVが注目される背景には、自動車の新しい付加価値への期待や、業界全体のDX推進、さらにコネクテッドカーを進化させて「新しいモビリティ社会の実現」を目指すという、自動車産業の大きな狙いがあります。これまでの自動車産業では、新車販売が収益の中心でした。

一度クルマを販売すると、その後のサービス(例:車検など定期的な整備)は購入者の自由選択に委ねられ、必ずしも自動車メーカーに収益が戻るとは限りませんでした。

しかし、SDVが一般的になれば状況は変わります。メーカーは販売後の自動車に対して、運転機能など主要システムのソフトウェアを有料でアップデートするサービスを提供することが可能になります。この仕組みは継続的に提供可能であるため、従来の販売時の新車販売収益に加え、有料のソフトウェアアップデートによって、販売後も安定した新たな収益源となることが期待されます。

運転が人の手にゆだねられている時代には、SDVは必ずしも必要ではないかもしれませんが、将来、自動運転が一般的になる時代には、安全面に配慮した自動車のソフトウェアのアップデート(=SDV)は必須の条件となると考えます。

安全について、ジオテクノロジーズでは人流データとAIを使い交差点リスクを可視化する技術研究を行っています。
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SDVのメリット

【ユーザーにとってのメリット】

SDVでは、購入後にもソフトウェアの継続的な更新が可能であり、初期の状態にとどまらず安全性能が向上し続ける点が最大の魅力です。結果として、より安全な走行が期待でき、ユーザーは長く安心して愛車を使い続けることができます。
また、既に普及しているコネクテッドカーの機能(ビデオストリーミングや音楽配信など)も、自分好みにカスタマイズ可能な機能です。たとえば、テスラでは「プレミアムコネクティビティ」という有料サービスを通じて、こうした機能をユーザーが選んで利用できるようになっています。
ソフトウェアのアップデートには費用がかかることがありますが、ソフトウェアの更新によって安全性を維持できます。加えて新車に近い性能にアップデートできることによって自動車を長期間利活用でき、買い替えの頻度を軽減し、結果としてコストの節約につながる可能性があります。
さらに、将来的に高精度な自動運転機能を搭載した自動車が普及すれば、過疎地などで自動車での移動が必要な高齢者が免許を返納せずに自立して移動できるようになるなど、年齢を重ねても行動範囲を維持できる社会の実現が期待されます。

ジオテクノロジーズではSDVを採用している自動車も多いBEVユーザーの大規模行動調査を行いました。
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【自動車メーカーにとってのメリット】

自動車メーカーにとって、SDVは従来の売り切り型ビジネスから脱却し、新たな収益モデルを構築できる可能性を秘めた自動車です。販売後も運転支援などの機能のアップデートを有償で提供できるため、継続的な収益の確保が可能となります。
さらに、製品の差別化軸としてソフトウェアが加わることで、ハードウェアのスペックやデザインに依存しない新しい価値の提供ができるようになります。
将来的には、車両の保守点検においてリモート診断や遠隔修理を導入することで、整備業務の効率化と経費削減が見込まれます。

ジオテクノロジーズでは地図を毎月アップデートしています。刻々と変化する道路データに関心のある方はこちらのページをご覧ください。

SDVの社会貢献への期待

SDVは、社会全体にさまざまなポジティブな影響をもたらす可能性があります。主なメリットとしては以下が挙げられます。

自動車販売の増加による経済効果:

SDVがもたらす新たなサービス提供形態により、自動車市場が活性化し、経済へプラスになる可能性があります。

安全向上と交通の円滑化:

自動運転モデルの普及により、交通事故が減少し、渋滞の緩和にも寄与することが期待されます。

バリューチェーンの革新:

SDVが導入する新しいビジネスモデルにより、業界全体のユースケースが拡大し、イノベーションが加速する可能性があります。

雇用の創出:

SDV関連技術の必要性から、新たな分野での人材採用が進み、雇用促進にもつながります。
持続可能な社会への貢献:環境負荷軽減など、サステナブルな社会づくりにも貢献する可能性があります。

移動が楽な社会の実現:

自動運転・先進運転支援機能(AD・ADAS)の進化により、移動が楽な社会の実現やコミュニティの活性化が期待できます。

ジオテクノロジーズでは全国の人流データを保有しています。自動車業界での人流データのユースケースに興味がある方はこちらの資料をご確認ください。

<参考>経済産業省 「モビリティ戦略に関するロードマップ」2030年以降のSDVの社会貢献

SDVの課題について

次にSDVの課題についてみていきましょう。

技術面の課題① ハードウェアとソフトウェアの分離

SDVの実現に向けては、ハードウェアとソフトウェアの分離が大きな課題となります。従来の自動車では両者が密接に結びついていましたが、SDVではソフトウェアを独立して開発することで、効率性や柔軟性を高め、コスト削減にもつなげようとしています。
ハードウェアとソフトウェアの分離することにより、開発スピードの向上やソフトウェアの再利用が可能になります。一方で、自動車は安全性が最優先されるため、ハードとソフトの緊密な連携が欠かせない領域も多く、完全な分離には技術的なハードルが存在します。

技術面の課題② OSと標準化されたAPIの開発

ハードウェアとソフトウェアを分離するためには、異なるハードウェアでも同じソフトウェアで制御できる仕組みが必要です。その中核となるのが、ハードウェアの違いを吸収する ビークルOS と、ソフトウェアとの橋渡しを担う 標準化されたAPI です。
ビークルOSと標準化されたAPIはハードウェアとソフトウェアの分離を実現し、ソフトウェア互換性の確保やハードウェア資源の抽象化、OTAアップデート(インターネットを通じたアップデート)を可能にします。
異なる車両のハードウェアを統一的なAPIで抽象化することで、ソフトウェアの効率的な開発や遠隔更新、機能拡張が可能になる点は大きなメリットです。しかし、その実現には多くの課題が存在し、業界全体での協力が欠かせません。たとえばビークルOSの開発においては、車両のハードウェア資源を適切に抽象化し、ひとつのソフトウェアで複数種類の車両を制御できるようにすることが求められますが、これは簡単なことではありません。どの部分をどの階層でどのように抽象化するのかを決定する必要があり、さらに複数のアプリケーションが同時に制御を行う際の調停や、安全性をビークルOS自体で担保することも求められます。
また、標準化されたAPIの開発においては、自動車メーカーの枠を超えた標準化の必要性について意見が分かれています。特にどの階層でAPIを定義するかは業界のビジネスモデルに大きな影響を及ぼします。さらに、APIの標準化だけでは十分な互換性を確保するのは難しく、ボディー系にとどまらず、AD/ADASを含むすべてのドメインを対象としたAPI策定に取り組む必要があります。
ジオテクノロジーズでは地図のAPI配信サービスも行っています。

技術面の課題③ システムのアーキテクチャーの変化

車載組み込みシステムのアーキテクチャーは、いくつかの側面で変化していますが、最も顕著なのは「自律分散型から中央集権型システムへの転換」です。
従来の車載システムでは、エンジン制御用やステアリング制御用など、各機能ごとに独立したコンピューターが分散して動作しており、全体の統合制御はドライバー自身が担っていました。これに対し、自動運転では人に代わってECU(電子制御ユニット)が車全体を制御するため、システムは自然に中央集権型へと移行します。

自動運転用のコンピューターには、AIをはじめとする高度な技術が多数組み込まれるため、従来に比べて飛躍的に高い演算能力が求められます。高性能コンピューターを車両に搭載する場合、演算処理を集中させるほうがコスト面でも効率的です。そのため、現在ではビークルコンピューター(セントラルECU)のような大型中央コンピューターを設置し、そこから車両全体を統合的に制御するアーキテクチャーが主流になりつつあります。

ジオテクノロジーズの持つOpenDRIVEデータを活用した自動車シミュレーション開発に興味のある方はこちらの資料をご覧ください。

<参考>経済産業省 「E/Eアーキテクチャの変化」

ビジネス面での課題

SDVの普及により自動車メーカーは従来の車両販売中心のビジネスモデルから、より持続可能で多様な収益源を持つモデルへと移行が必要となります。
具体的には、OTA(Over The Air)アップデートを通じて、車両の機能追加や性能向上が可能となり、ユーザーのニーズに応じたソフトウェアの更新やカスタマイズサービスが提供を通じたビジネス展開が必要になります。
さらに、スマートフォンのアプリストアに類似した車両向けアプリストアの導入により、ユーザーは自分好みのアプリやエンターテインメント機能を追加できるようになり、車のカスタマイズが可能となっています。従来のハードウェアのカスタマイズによるビジネスに加えて、ソフトウェアのカスタマイズで収益を上げていくビジネスモデルへの拡張が課題となります。
また、車両から収集されるデータを活用した新たなアプリケーションやサービスの提供も進んでおり、月額課金などのサブスクリプションモデルが新たなビジネスモデルとして登場しています。
これらの取り組みにより、自動車メーカーは車両のライフサイクル全体を通じて継続的な収益を得ることが可能となり、ビジネスの安定性と成長性の向上が期待されています。新しいビジネスモデルの収益化が自動車業界の大きな課題です。

セキュリティ面の課題

SDVの進化により、サイバーセキュリティの重要性が一層高まっています。
コネクテッドカーの普及に伴い、車両システムや個人情報の保護、OTAアップデートの安全性確保など、多層的なセキュリティ対策が一層求められています。

まとめ:SDVの国の取り組み

国土交通省と経済産業省は、SDVを中心とした自動車産業のデジタル化戦略を推進しています。この戦略では、ソフトウェア開発、自動運転サービス、データ利活用の3分野において、個社単位の競争を超えた協調を促進し、2030年から2035年にかけてSDV市場での3割のシェア獲得を目指しています。
具体的には、官民で構成される「モビリティDX検討会」を通じて、以下の取り組みが進められています。

ソフトウェア開発の協調:自動車メーカーやIT企業が連携し、共通のプラットフォームや開発ツールの整備を進めています。
自動運転サービスの実現:地域ごとのニーズに応じた自動運転サービスの実証実験や社会実装が進められています。
データ利活用の促進:車両データや交通データの共有・活用に向けたルール作りやプラットフォームの整備が進められています。

これらの取り組みにより、日本の自動車産業は国際競争力を高め、持続可能なモビリティ社会の実現を目指しています。
SDVについて、注目される背景やメリット、課題などについて詳しく説明してきましたがご理解いただけたでしょうか?
最後に当事者の各自動車会社はSDVのことをどのように考えているのか少し紹介します。
まずはトヨタ自動車です。トヨタ自動車の豊田章男会長はSDVの目的を「悲しい交通事故をゼロにすること」と答えています。

次はSDVに親和性が高い電気自動車を製造・販売を行うソニー・ホンダモビリティです。 ソニー・ホンダモビリティの西川社長は「移動における時間と空間の解放」の手段がSDVであると発言されています。自動運転機能(AD)や先進運転支援機能(ADAS)をどんどん進化させて、移動時に人を運転から解放しエンターテインメントを楽しめるようにしたいという意味だと推測します。
お二人の言葉からSDVという技術自体の開発も大切ですが、実際にはSDVは手段であって目的ではなく、SDVという技術を使ってどのようなことを実現するかということが一番大切だと感じました。
ジオテクノロジーズではAD・ADAS開発に役立つ地図データや人流データを整備・収集しています。地図データ、人流データに興味のある方はこちらからお問い合わせください。

<参考>トヨタイムズ トヨタのSDVの目的
<参考>ソニーホンダモビリティ 西川社長コメント

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