最近、都内でも「運転手不足によりバスの本数を減らします」といった張り紙を見かけることが増えてきました。全国各地でも、バスや鉄道の路線見直しに関するニュースが相次いでいます。
一方で、運転免許を自主返納する高齢者が年々増加しており、公共交通の重要性はますます高まっています。
そのような社会情勢の中で、政府が推進している「オンデマンド交通」という新たな移動手段をご存じでしょうか?
ITを活用したMaaS(Mobility as a Service)の一環として、地域の移動ニーズに応える形で公共交通を補完する仕組みとして注目されています。
今回は、人流データや地図データの整備・保有を行っているジオテクノロジーズが、オンデマンド交通の仕組みや可能性について、分かりやすくご紹介します。

オンデマンド交通とは?
近年、人口減少や少子高齢化の影響で、全国的にバスなどの公共交通の利用者が減少しています。利用者減少に伴う不採算路線の縮小や廃止が進んでいます。買い物難民の増加や高齢者の移動支援を目的に、コミュニティバスの導入も広がっていますが、利用者1人あたりの輸送コストが増大し、自治体の財政負担が大きくなるという課題も抱えています。
このような中で注目されているのが、利用者の予約に応じて運行ルートや時間が柔軟に変化する「オンデマンド交通」です。これは、決まったルートと時刻で運行する従来の路線バスとは異なり、利用者のニーズに応じて効率的に運行する新しい形の交通サービスです。運行形態も多様で、決まった停留所にのみ停まる方式から、特定エリア内を自由に移動できるタクシー型の方式まで、さまざまなタイプがあり予約がある場合にのみ運行されます。
ちなみに「デマンド」とは「需要」や「要望」を意味する言葉で、「オンデマンド交通」は正式には「需要応答型交通システム(DRT:Demand Responsive Transport)」と呼ばれています。
国土交通省が2013年に発行した「デマンド型交通の手引き」では、DRTは路線バスとタクシーの中間に位置する交通サービスと位置づけられており、事前予約制であることが大きな特徴です。運行形態は、運行方法・ダイヤ・出発地や目的地(OD)の柔軟な組み合わせにより多様化しており、2006年の道路運送法改正以降は、デマンド型交通も「乗合事業」として制度上の位置づけがなされています。原則として、地域公共交通会議での協議を経て、運行許可が与えられる仕組みとなっています。
オンデマンド交通とデマンド交通の違い
「オンデマンド交通」とよく似た言葉に「デマンド交通」があります。これらは基本的に同じ意味で使われることが多く、いずれも利用者が事前に予約して利用する公共交通サービスを指します。
ただし、自治体や省庁によって使い方や意味合いに微妙な違いがあることもあります。例えば、「デマンド交通」は、過疎地域における移動手段としての公共交通を指す場合が多く、一方で「オンデマンド交通」は、MaaS(Mobility as a Service)を活用し、スマートフォンなどのデジタルデバイスを通じて予約・運行管理を行う先進的なサービス、いわゆる「AIオンデマンド交通」を示すケースもあります。
オンデマンド交通の目的
①交通弱者対策
②現存する公共交通機関の活性化
③地方や観光地などの移動手段の提供
④都市部の混雑解消
オンデマンド交通の種類
オンデマンド交通には様々な種類が存在しています。以下の3つの観点から見た種類について、それぞれの特徴を詳細に解説します。
①運行方式による種類
オンデマンド型交通は、予約があった場合にのみ運行する仕組みで、運行方法や時刻、発着地点などを柔軟に組み合わせることができる点が特徴です。そのため、多様な運行形態が存在します。ここでは、主なタイプを運行方式の観点からご紹介します。
<定期路線型>
「定期路線型」は、従来の路線バスやコミュニティバスで採用されています。あらかじめ決められたルートとバス停を設定し、通常のバスのように運行しますが、予約が入ったときのみ運行します。空車運行を避けられるため、コスト削減につながります。
<迂回ルート・エリアデマンド型>
「迂回ルート・エリアデマンド型」は定期路線型をベースにしつつ、利用者の予約に応じてあらかじめ定められた迂回ルートを通る方式です。通常ルートではカバーできない場所にも対応できるため、公共交通の空白地帯を補完する手段として有効です。
<自由経路ミーティングポイント型>
「自由経路ミーティングポイント型」は決まった運行ルートはなく、利用者の予約に応じて、バス停や指定された乗降場所を結ぶ方式です。予約に合わせて最短ルートで運行されるため、移動効率が高く、バス停をきめ細かく設置することで徒歩移動の負担も軽減できます。
<自由経路ドアトゥドア型>
「自由経路ドアトゥドア型」はタクシーのように利用者が希望する場所で乗り降りできる方式です。指定エリア内を巡回し、予約のあった場所を順次回るスタイルで、特定の施設や拠点に限定する場合もあります。柔軟性が高く、個別ニーズに対応しやすいのが特徴です。
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②運行ダイヤによる種類
オンデマンド交通の運行ダイヤは、大きく3つに分類されます。
1 固定ダイヤ型
あらかじめ決められた時刻表に従って運行する方式で、通常の路線バスに近い形式です。ただし、実際に運行するのは予約があった場合のみとなります。
2 基本ダイヤ型
発着の時刻や運行頻度の目安が定められている方式です。厳密な時刻ではなく、おおよそのタイミングで運行される点が特徴です。
3 非固定ダイヤ型
決まった時刻表は設けず、設定された時間帯の中で、利用者の予約状況に応じて運行する方式です。
③発着地の自由度による種類
発着地の自由度から見ると、大きく固定型と非固定型に分類されます。
そのうえで、発着場所が特定の地点に限定されているものや、完全に自由な場所を指定できるものなどを組み入れて分類することも可能です。
オンデマンド交通・タクシー・路線バスの違い
オンデマンド交通は、路線バスとタクシーの両方の特徴をあわせ持つ交通手段です。ただし、路線バスとタクシーとは異なる点もあります。たとえば、利用可能なエリアや乗降場所、運行時間に柔軟性があり、利用者の希望に応じて運行される点はタクシーに似ています。大型車両を使用することもあり、乗り合いタクシーよりも運賃を抑えられる点は、バスと共通しています。このように、オンデマンド交通は両者の長所を取り入れた新しい移動手段といえます。それぞれの違いは以下の通りです。
■ オンデマンド交通
利用できるエリア:決まりはなし
乗降場所:決まりはなし
利用できる時間:決まりはなし
利用方法:予約が必要
利用形態:乗り合い
車両:大型車・普通車
■ 路線バス
利用できるエリア:設定されたエリア内のみ
乗降場所:設定された場所(バス停)
利用できる時間:時刻表に基づいて運行
利用方法:予約不要(自由乗車)
利用形態:乗り合い
車両:大型車
■ タクシー
利用できるエリア:決まりはなし
乗降場所:決まりはなし
利用できる時間:決まりはなし
利用方法:予約制(または流しで乗車)
利用形態:個人
車両:普通車
ジオテクロジーズが保有する道路ネットワークデータを使ったデマンド交通AIによるリアルタイムな配車システムに興味のある方はこちらの資料を確認ください。
オンデマンド交通のメリット、デメリット
次にオンデマンド交通が持つメリットとデメリットについて解説していきます。
【オンデマンド型交通のメリット】
1. 公共交通機関の運営コストを削減し、自治体の財政負担を軽減できる
オンデマンド交通は、必要なときに必要な場所へ運行する仕組みのため、無駄な運行を減らせます。これにより運営コストが下がり、自治体の財政負担も抑えることができます。
2. 利便性が向上し、利用者のニーズに応じた運行が可能となる
決まった時刻表やルートに縛られず、利用者の希望に応じて運行できるため、より便利に使えます。タクシーより安い料金で使用でき、日常の移動手段としても利用しやすくなります。
3. 公共交通空白地域の課題解消につながり、過疎地でも移動手段を確保できる
路線バスが走っていない地域でも、オンデマンド交通を使えば移動手段が確保できます。特に高齢者など、交通弱者の生活を支える手段として有効です。
4. 従来の交通機関の活性化につながる
地域のバス会社がオンデマンド交通を取り入れることで新たな利用者を獲得し、サービス全体の活性化につながります。利用者だけでなく、交通事業者側にも良い影響をもたらします。
【オンデマンド型交通のデメリット】
1. 路線バスよりも運賃が高くなる傾向がある
少人数での運行が前提となるため、一人あたりのコストが高くなり、結果として運賃が路線バスより割高になることがあります。
2. 多様なニーズにすべて対応するのは難しい
利用者によって目的や時間帯が異なるため、すべての希望を満たす運行は難しく、満足度にばらつきが出る可能性があります。
3. 予約が手間に感じられ、利用をためらう人もいる
予約制ゆえに、特に高齢者やITに不慣れな人にとっては使いにくく、利用を敬遠するケースもあります。
AIオンデマンド交通について
近年、オンデマンド交通ではAI(人工知能)の活用が主流になりつつあります。利用者の予約情報や移動需要の予測に基づき、AIが最適な乗り合わせや配車、運行ルートをリアルタイムで判断・指示します。(下記図参照)。AIの活用により、人の手では難しかった様々なデータ活用による効率的な運行が可能になります。
AIが活用するデータはサービスによって異なりますが、地図情報や地形、需要分布などの静的な情報に加え、乗降場所や道路の混雑状況、車両の運行状況などの動的な情報まで多岐にわたります。
AIを活用したオンデマンド交通の導入により、利用者にとっては迅速な配車や目的地までの所要時間の短縮が期待できます。料金体系においても、乗り合い人数に応じて運賃が変動する仕組みを採用することで、乗り合い率が高まり、利用料金を低く抑えることも可能です。
自治体や事業者の視点では、乗車率や稼働率の向上によって収益性が向上するほか、ルートの適正化により走行距離が短くなり、渋滞も回避できるため、運行コストの削減が期待されます。
AIオンデマンド交通では、予約から運行までを一貫してシステムで管理します。運行データを一元管理することで、運行状況の把握やサービス改善、運行精度の向上が容易になります。
また、こうしたデータはMaaS(Mobility as a Service)と連携し、タクシーやコミュニティバスなど他の交通手段と組み合わせて、地域交通サービス全体でより効率的な移動を実現できます。さらに、地域内の商業施設やサービスと連携することで、集客・送客の効果が高まり、地域経済の活性化にもつながります。
AIオンデマンド交通は過疎地の移動を支える交通だけでなく、能登半島地震復興のために使われたり、万博を訪れる観光客を和歌山市の観光地に誘致する目的で利用されたりしています。
特に和歌山市の事例は、AIオンデマンド交通技術を導入した周遊型サービスで、観光客にとってはスマホからタクシーを簡単に呼び出して観光地間を移動でき、しかも、通常のタクシーでは約7000円かかるところを3000円で周遊できます。
タクシー事業者にとってもAIによる効率的な配車により走行距離や空車時間を削減し、稼働率の向上と収益の最大化が期待されています。
<参考>国土交通省
能登地域における地域公共交通の復興対応手法・移動モデルの構築に関する調査報告
AIオンデマンド交通とシェアモビリティによる和歌山市観光促進モデル
法人向けサービスに関するお問
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