調査の背景と目的
2026年9月1日、改正道路交通法施行令の施行により、中央線や車両通行帯がない主に住民の生活に利用される「生活道路」の法定速度が、現行の60km/hから30km/hへ引き下げられます。
改正の背景には、生活道路での事故において、歩行中や自転車乗用中に死傷する人の割合が高い傾向にあることが挙げられます。これまでも個別の道路に対する30km/h以下の最高速度規制や「ゾーン30」「ゾーン30プラス」などの対策が取られてきましたが、更なる安全対策として、今回の全国的な法定速度引き下げが行われることとなりました。
(参考:生活道路における最高速度の引き下げ詳細:
https://business.mapfan.com/blog/detail/6017)
生活道路の法定速度引き下げは、ドライバー、同乗者、歩行者、自転車利用者など、道路を利用するすべての人々の安全を守るための重要な改正です。施行を目前に控えた今、人流データ「Geo-People」による「走行実態分析」と、位置情報に基づくアンケートリサーチ「Geo-Research」による「ドライバーの意識調査」を実施し、現状の実態と課題を明確化しました。
調査結果サマリ
制度の認知と理解
法定速度引き下げについて、ドライバーの約6割が「認知」している一方、「対象道路」と「速度」の両方を正しく理解している人は1割未満にとどまっている。
評価と順守への課題
約9割のドライバーが「必要な改正」と評価する一方、3割台が順守に不安を感じている。「対象道路の分かりにくさ」「後続車からのプレッシャー」「速度が出やすい道路構造」が主な課題となっている。
生活道路における走行速度の実態
全地域で「30~40km/h」での走行が最多。東京都23区では約5割が「30km/h以下」で走行しているのに対し、東京を除く全地域では約6〜9割が「30km/h超」で走行している。9月以降、普段通りの感覚で走行した場合、引き下げ後の法定速度(30km/h)を超過するギャップの発生が懸念される。
ゾーン30の効果と地域差
「ゾーン30」内であっても全地域で過半数が「30km/h超」で走行しており、特に地方部(群馬県・長野県)では「30km/h超」が約7~8割と常態化している。既存規制の運用や定着において地域差が見られる。
利用実態と危険認識
2~3割のドライバーが生活道路を「近道・抜け道」として利用している。生活道路の危険認識には地域差があり、東京都23区では約3割が「電動キックボード」に危険を感じた経験がある。
【走行実態分析】人流データ分析による「生活道路」および「ゾーン30」における走行実態
東京都23区、大阪府、愛知県、福岡県、群馬県、長野県の6地域を対象に、人流データ(Geo-People)を用いて各対象エリア内に存在する「生活道路」および「ゾーン30」における走行の実態を分析しました。

<1.生活道路の走行速度の実態>
全地域で「30~40km/h」での走行が最多、東京都23区を除く全地域で約6〜9割が「30km/h超」、東京都23区のみ5割が「30km/h以下」
生活道路における走行速度の実態を見ると、全ての地域において「30~35km/h」、または「35~40km/h」に最も多く分布していました。また、東京都23区を除く全ての地域で「30km/h超」での走行が全体の約6~9割を占めていることが明らかになりました。
一方、東京都23区では、前述の通り最多速度帯は「30km/h超」ではあるものの、「30km/h以下」の走行が5割以上と、他地域と比較して走行速度が抑制されている傾向が示されており、法定速度引き下げへの適応において、地域差が存在する実態が認められました。
生活道路における安全配慮と、新制度導入によるギャップ
生活道路において60km/h近くに達するような著しい高速度での走行は極めて稀であり、多くのドライバーは一定の安全に配慮した速度(30km/h台)を自律的に維持して走行している様子が読み取れます。しかし、この走行実態のまま2026年9月の速度引き下げを迎えた場合、ドライバーが普段通りの感覚で走行していても、新たな法定速度(30km/h)を上回ってしまうギャップが生じることが懸念されます。

<2.生活道路における時間帯別の速度分布>
東京都23区では約5~6割が「30km/h以下」を維持も、他地域では約6~9割が「30km/h超」
生活道路における時間帯別の速度分布を分析したところ、多くの地域で朝夕に交通量のピークをもつ二峰型の推移が確認されました。一方、東京都23区では朝(7~8時台)に交通量が急速に立ち上がった後、夕方のピーク(17時台)に向けて日中も増加し続ける傾向がみられます。
走行速度の推移をみると、東京都23区では「30km/h以下」の走行が日中(7時~21時)を通じて約5~6割を維持し、低速車が主体となっています。交通量がピークとなる17時台においても、約5割が「30km/h以下」で走行しており、交通量の増加に関わらず、速度が抑えられている実態がうかがえます。
一方、東京都23区を除く全ての地域では、交通量の増減に関わらず、日中どの時間帯でも「30km/h超」の走行が約6~9割と、過半数を占めており、「30km/h超」の走行が恒常化している実態が浮き彫りとなりました。2026年9月の引き下げ施行に向けては、交通量や時間帯に関わらず、地域ごとの走行環境やドライバーの意識に働きかける日常的な速度コントロールの啓発が求められます。

<3.ゾーン30の走行実態>
全地域で速度超過が過半数、地方部でより高速度帯での走行が常態化
すでに30km/h規制が導入されている「ゾーン30」について速度分布を分析したところ、東京都23区、大阪府、愛知県、福岡県といった都市部における最多速度帯は「30〜35km/h」であり、「30km/h超」の走行割合が約5~6割と過半数を占めることが分かりました。
さらに地方部を見ると、長野県の最多速度帯は「35〜40km/h」で「30km/h超」の走行割合が約7割、群馬県では最多速度帯が「40〜45km/h」で「30km/h超」の走行割合が約8割に達しており、走行車両の大部分が規制速度(30km/h)を超過している実態が明らかになりました。
これらの結果から、全地域において、ゾーン30の指定区域内であっても十分な速度抑制に至っていない現状が浮き彫りとなりました。特に都市部と比較して地方部においてより顕著な超過傾向が見られ、2026年9月の全国的な法定速度引き下げを前に、既存規制の運用や定着における地域的な課題が示唆される結果となりました。

<4.ゾーン30における時間帯別の速度分布>
東京では約5割が「30km/h以下」を順守も、都市部で約6割、地方部では約7~8割が「30km/h超」
生活道路における時間帯別の速度分布の分析では東京都23区のみ例外的な推移を示していたのに対し、ゾーン30における分析では、東京都23区を含むすべての地域で朝(8時台)と夕方(17時台)に明確なピークをもつ「二峰型」の推移が確認されました。
ゾーン30の時間帯別の走行速度については、東京都23区は、「30km/h以下」の走行が日中(7時~21時)で約5割と低速車が主体となっており、交通量がピークとなる17時台であっても約5割を維持しています。
大阪府、愛知県、福岡県といった都市部では、日中、約6割が「30km/h超」で走行しており、交通量がピークとなる17時台であっても約6割が「30km/h超」となっています。
一方、地方部である群馬県、長野県では日中において約7~8割が「30km/h超」で走行しています。17時台のピーク時においてもその割合は変わらず、ゾーン30の規制区域内であっても、恒常的にスピードが抑制されにくい実態が明らかとなりました。
このことから、ゾーン30という明確な規制区域であっても、地域ごとの定着度や走行実態に差異が存在することが浮き彫りとなりました。

【ドライバー意識調査】「日常の運転」および「生活道路の法定速度引き下げ」に関する意識調査
東京都23区、大阪府、愛知県、福岡県、群馬県、長野県のドライバー4,994名を対象に、位置情報に基づくアンケートリサーチサービス「Geo-Research」を用いて、日常の運転および生活道路の法定速度引き下げに関する意識調査を実施しました。
<5.法定速度引き下げの認知・理解状況:認知率は約6割も、具体的内容の正解率は1割未満>
2026年9月から施行される生活道路の法定速度引き下げについて、すべての地域共通で約6割が認知している一方、「内容も含めて詳しく知っている」と回答した人は15%前後にとどまりました。

また、引き下げ対象となる道路と、引き下げ変更前後の法定速度を両方正しく回答できた人は、全地域で1割未満にとどまりました。制度を認知している層に限っても正解率は約1割にとどまりました。

項目別の理解度を見ると、引き下げの「対象道路」についての正解率はすべての地域で2割強にとどまり、約半数は「わからない」と回答しました。さらに変更前後の「法定速度(30km/h)」についての正解率は全地域で1割前後とさらに低く、半数以上が「わからない」と回答しています。

これらの結果から、制度の認知自体は進んでいるものの、具体的な対象道路や速度といった詳細な内容の正確な理解には至っていない状況が浮き彫りとなりました。
<6.生活道路の法定速度引き下げへの評価:制度への賛同は9割に上る一方、3割台が順守に不安>
すべての地域で約9割が生活道路の法定速度引き下げを「必要な改正」と評価しました。一方、「必要だと思うが、順守することに不安がある」と答えた人は3割を超え、制度への賛同がみられる一方で、実際の順守には不安を感じる人も少なくないことが分かりました。なお、改正に否定的な回答は約1割と限定的でした。

<7.生活道路における30km/h順守に向けた課題:最大の障壁は「対象道路の分かりにくさ(約4割)」>
30km/h順守に向けた課題では、すべての地域で「どこが対象道路か分かりにくい」が最多となり、各地域で回答者の約4割が挙げました。続いて、「後続車や周囲の車からプレッシャーを感じそう」が約3割、「つい速度を出してしまいそうな道路がある」が上位に挙がりました。このことから、制度の周知だけでなく心理的要因や道路環境も順守の障壁となっている様子がうかがえます。

<8.生活道路を走行する理由:目的地の沿線利用が中心も、2~3割が「抜け道」として利用>
ドライバーが「生活道路」を走行する理由としては、すべての地域で「自宅や目的地が生活道路沿いにあるため」が最多となりました。また「昔から使っている慣れた道だから」が続き、生活道路は日常的な移動経路として利用されていることがうかがえます。一方、2~3割が「近道・抜け道として利用するため」と回答しており、生活道路が近道・抜け道として利用されている状況も一定数みられました。

<9.生活道路走行時の運転意識:地域を問わず約8割が安全を意識>
生活道路を走行する際の運転意識については、すべての地域で約8割が「常に速度を抑えて運転している」または「周囲の状況(歩行者・自転車など)に応じて速度を調整している」と回答し、安全を意識した運転を心がけていることが分かりました。
詳細を見ると、「常に速度を抑えて運転している」と回答した割合は、群馬県・長野県で都市部よりやや低いものの、大きな差は見られませんでした。
また、すべての地域で「周囲の状況に応じて速度を調整している」が最多となり4~5割を占めました。一方、「流れに合わせて運転している」「特に意識せずに運転している」と回答した人も合計で約2割弱存在していました。

<10.生活道路での危険な経験:9割以上が危険を経験、都市部は「飛び出し」地方部は「対向車」が上位に>
生活道路での危険を感じた経験については、すべての地域でドライバーの約5割が「歩行者や自転車との距離の近さ」を挙げました。また、「特に危険を感じたことはない」と回答した人はいずれの地域でも5%程度にとどまり、ほとんどのドライバーが生活道路で何らかの危険を感じた経験を持っていることがうかがえます。
地域別にみると、東京都23区では、「自転車の飛び出し」を挙げた人が55%である一方、長野県では36%と、約20ポイントの顕著な差異が見られました。また、群馬県・長野県では、「対向車とのすれ違い」を挙げた割合が5割を超え、都市部よりやや高い傾向がみられました。
さらに、東京都23区では、電動キックボードの走行に危険を感じた人が3割超となり、他エリアを顕著に上回る結果となりました。

<11.自由回答から見えた期待と課題:事故減少への期待の一方で「煽られること」への懸念と周知を求める声>
生活道路における法定速度引き下げに関する自由回答(有効回答1,674件)では、「事故の減少」や「安全性向上」といった制度導入を好意的に受け止める期待の声が多く寄せられました。一方で、「煽られるのではないか」「後続車からのプレッシャーが気になる」「クラクションを鳴らされそう」といった不安が挙げられ、回答の約1割で言及されました。
また、対象道路やルールのわかりにくさを指摘する意見のほか、歩行者・自転車を含めた安全対策や制度の周知・情報提供の充実を求める声も寄せられました。
※有効回答数(1,674件)および言及割合(約1割)は、自由回答データから関連キーワードを用いて機械抽出を行い、一部目視確認のうえ算出した概算値です。

【総合考察】走行実態分析と意識調査からみる30km/h定着への課題と展望
本調査は、人流データによる「走行実態分析」と「ドライバーの意識調査」の2つのアプローチで実施しました。双方のデータを多角的に分析することで、2026年9月の生活道路における30km/h化に向けたドライバーの理解や、走行の現状、そして今後の課題が見えてきました。
安全配慮の意識と、引き下げ後の速度とのギャップ
今回の調査から、2026年9月に迫る生活道路の法定速度引き下げは約9割のドライバーに「必要な改正」と評価されており、広く支持されていることが分かります。また、生活道路の走行時においては、約8割が「常に速度を抑えている・周囲に応じて調整している」と回答し、一定の安全配慮を行っている様子がうかがえます。
しかし走行実態を見ると、現行の法定速度(60km/h)のもとでは、東京都23区を除く全地域で約6割〜9割が「30km/h超」で走行しています。現行ルールとしては適切な範囲内であるものの、「安全に配慮している」という意識のまま普段通りの感覚で走行を続けた場合、9月の施行以降は新たな法定速度(30km/h)を超過してしまうギャップが生じる可能性が考えられます。
「ゾーン30」の実態と意識調査から見る課題
すでに30km/h規制が導入されている「ゾーン30」の走行実態においても、東京都23区、大阪府、愛知県、福岡県といった都市部において、「30km/h超」の走行割合が約5~6割と過半数を占めています。さらに地方部(群馬県・長野県)では「30km/h超」の走行割合が約7~8割に達するなど常態化しています。
この実態と意識調査の結果(正解率1割未満/対象道路の分かりにくさ約4割/後続車からのプレッシャー約3割)を重ね合わせると、単に「30km/hに規制する」だけでは十分な速度抑制に至らない可能性が示唆されます。順守に向けては、対象道路を分かりやすく伝えることや、周囲の車からのプレッシャー、速度が出やすい道路構造などへの対応も重要と考えられます。さらに地域ごとの走行実態に応じた啓発活動を行うことも、法令順守の促進につながると考えます。
おわりに
交通を取り巻く環境は、高齢化や過疎化、慢性的な交通渋滞などを背景に、安全対策の推進をはじめとする多様な社会課題への対応が求められています。
そうした中、ジオテクノロジーズは、創業以来30年にわたりカーナビ向けデジタル地図データを提供し、人々の移動を支えてきました。長年培った交通分野での知見・技術に加え、保有する地理空間データと人流データをはじめとするダイナミックデータを駆使し社会課題の解決に取り組んでいます。
そうした取り組みの一環として実施した本調査による分析結果が、今後の啓発活動や交通環境の整備など、地域の交通安全に資する取り組みとして活用されることを願っています。
なお、今回の施行前調査をベースラインとし、2026年9月1日の施行日以降にも走行実態分析および意識調査を実施し、法定速度引き下げ前後での変化を追跡検証していく予定です。
調査概要
<アンケートリサーチによるドライバー意識調査概要>
調査目的:生活道路の法定速度引き下げ前における生活道路の利用実態や制度の認知・理解状況を把握するとともに、順守に向けた課題を明らかにする。
調査手法:「Geo-Research」(ポイ活アプリ「トリマ」ユーザーに対するWEB調査)
対象者:20~69歳男女、普通自動車免許保有かつ月1回以上運転者、対象エリア居住者(2026年6月1日時点)
対象エリア:東京都23区、大阪府、愛知県、福岡県、群馬県、長野県
調査サンプル数:4,994ss
割付:男女×年代均等割り付(ベストエフォート)
調査期間:2026年6月23日火曜日~6月29日月曜日
<人流データによる走行実態分析概要>
調査目的:「生活道路」および「ゾーン30」における走行速度の実態、ならびに地域別等の走行特性を把握・比較分析し、順守に向けた課題を明らかにする。
調査手法:「Geo-People」(ポイ活アプリ「トリマ」ユーザーの人流データから抽出した自動車の走行履歴を分析)
対象エリア:東京都23区、大阪府、愛知県、福岡県、群馬県、長野県における「ゾーン30指定区域」および「生活道路(5か所)」※
調査期間:2026年5月1日金曜日~5月31日日曜日
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