公開日:2025.12.24 更新日:2026.01.09

【GTタイムズ#2】人流データで観光客の動きを読み解く~自然災害が富山観光に与えた影響とは~

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人流データは、報道や感覚では捉えきれない来訪者の実際の行動と観光客の動きを妨げる真の要因を浮き彫りにします。今回は人流分析を通じて見えてきた富山観光の現状と、持続可能な観光客の誘致戦略を練るためのヒントをご紹介します。

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1 能登半島地震前後の人流データ分析

2024年元旦の能登半島地震は、北陸地方全体に大きな影響を与え、富山県の観光業界にも深刻な懸念が広がりました。来訪者数の推移にどの程度の影響があったのでしょうか。

当社は、能登半島地震前の 2023 年 1 月から 2025 年 9 月までの富山県への来訪者数の変化について、人流データを用いて詳細に分析しました。その結果、地震による直接的な影響が大きいと考えられていた来訪者減少には、実は別の大きな要因が潜んでいたという意外な事実が浮かび上がってきたのです。
人流データ分析によって明らかになった富山県観光の実態をご報告いたします。

2 自然災害が来訪者数に与えた影響

2024年1月、能登半島地震の被害が特に大きかった石川県に隣接する富山県でも、当初は観光への影響が懸念され、実際に例年と比較して来訪者数の落ち込みが見られました。

しかし、人流データを詳細に分析したところ、意外な事実が明らかになりました。分析期間の中で最も大きな来訪者数の減少が見られたのは、地震発生時ではなく、2025年2月だったのです。この月は、富山市と高岡市伏木で例年の2倍以上という記録的な積雪が観測され、県内各地で道路の通行止めや交通障害が大規模に発生しました。

この分析結果が示唆するのは、被害の中心が石川県であった能登半島地震の影響よりも、富山県内で直接的な交通障害や移動の制約をもたらした2025年2月の豪雪の方が、実際の来訪者数により大きなインパクトを与えたという事実です。このことから、来訪者は報道される「被害の大きさ」よりも、自分が実際に訪れる場所での具体的な「移動の可否」や「アクセスの確保」をより重視する傾向にあることが分かりました。

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3 観光キャンペーンの効果と課題

能登半島地震後、富山県の観光需要を回復させる目的で実施された北陸応援割「とやま応援キャンペーン」(2024年3月16日~4月26日)により、2024年4月の富山県への来訪者数が例年と比較して増加したことが確認されました。この結果は、1月・2月の減少傾向からの回復を示すものであり、観光支援キャンペーンが来訪者数の回復に効果があることを証明しています。特に、前年4月に実施されていた全国旅行支援「富山で休もう。とやま観光キャンペーン」と比べても、地震後の4月来訪者の方が多かったことから、「とやま応援キャンペーン」は成功を収めたと言えます。

また2024年8月の来訪者も例年より増加しており、2024年3月に北陸新幹線の敦賀延伸により富山県へのアクセスが向上したことや、小・中・高校生による国際ロボット競技会「WRO 2024 Japan」の決勝大会が富山県で行われたことによる要因が推察されます。これらを総合的に見ると、能登半島地震による富山県の観光への影響は限定的であったと判断できます。

しかし懸念点として「とやま応援キャンペーン」が終了した後の2024年5月には、来訪者数が例年と同程度に戻ってしまいました。これは、キャンペーンによる割引や特典が終了すると、その効果が持続しないことを意味しています。この結果から、短期的なキャンペーンは緊急的な需要回復には有効であるものの、持続的な来訪者増加を実現するためには、より長期的な視点での分析と持続可能な施策が必要になってくると考えられます。

4 立山黒部アルペンルート来訪者の行動パターン

富山県を代表する観光地である立山黒部アルペンルートへの来訪者の行動を分析したところ、興味深いパターンが浮かび上がりました。来訪者の多くが富山駅周辺のホテルを利用しており、アルペンルートへの前泊や後泊で富山に立ち寄るという動線が中心となっています。

ところが、富岩運河環水公園の来訪者と比較分析を行ったところ、立山黒部アルペンルート来訪者が、富山県内の他の観光施設に立ち寄る傾向が著しく少ないことが判明しました。これは、アルペンルートを訪れる人々が、富山県内の他の観光スポットをほとんど訪問していないという現状を示しています。

この結果、多くの観光客にとって立山黒部アルペンルートのみが来訪目的となっており、富山県内の他地域への観光周遊にはつながっていないという課題が見えてきました。

© OpenStreetMap contributors

5 富山駅周辺に集中する観光行動

立山黒部アルペンルートの来訪者だけでなく、富岩運河環水公園の来訪者についても行動範囲を分析したところ、両者に共通する傾向が明らかになりました。それは、どちらの来訪者も行動範囲が富山駅近辺のエリアに強く集中しているという点です。

詳細なデータからは、来訪者が富山県全体を広く周遊して多様な観光地を巡るというよりも、富山駅周辺で買い物や飲食を済ませ、次の目的地(県外や立山方面)へ移動する傾向が強いことが見て取れます。富山駅周辺は利便性が高く魅力的な施設が集中していますが、この行動パターンは、来訪者にとっての観光体験が「富山駅周辺エリア」という限定的な範囲に留まっている実態を浮き彫りにしました。

この一連の行動は、「富山駅近隣のみの周遊」という「点」、もしくは狭い範囲での「線」の動きに過ぎません。富山県には魅力的な観光資源が県内各地に点在していますが、これらの資源にはまだ十分に活用しきれる余地が残されているようにも見受けられます。

6 人流データから見えること

今回の分析を通じて、人流データが観光客の誘致戦略において極めて重要な役割を果たすことが明確になりました。

具体的には、能登半島地震よりも翌年の豪雪の方が実際の来訪者数に大きな影響を与えていたこと、「とやま応援キャンペーン」の効果が一時的に留まったこと、そして立山黒部アルペンルート来訪者の行動範囲が富山駅周辺に限定的であることなど、従来の「感覚」や「思い込み」では把握できなかった富山観光の実態が、人流データによって明らかになったのです。

人流データは、人々の移動や行動を「線」として追うことを可能にします。観光業における誘致戦略の立案にとどまらず、小売業での商圏分析や店舗配置の最適化、イベント実施における効果測定、さらには交差点の事故リスク推定モデルへの活用など、幅広い分野での活用が期待されています。

データに基づいた意思決定は、限られたリソースを最大限に活用し、持続可能な地域づくりや事業運営への具体的な道筋を示してくれます。今後、人流データは様々な業界において、意思決定に欠かせないツールとなります。より精度の高い戦略立案のために、ぜひ人流分析の導入をご検討ください。

© OpenStreetMap contributors

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